東福寺龍眠庵墓地指定石材店のオフィス石太郎です。
生前墓に戒名を彫刻する際には、文字の中に朱色を入れる習わしがあります。
今回は、墓石に入れる朱色について色々書かせていただこうと思います。
様々な地方の方言があるように、お墓に関する風習にも地域性があります。
従来の和型の墓石ですが、同じように見えても実は地域によって形が微妙に違います。
本項のテーマである朱文字にも地域性があります。
全国的には
戒名を生前に彫刻しておく場合には、戒名の2文字に朱色が入れられてきました。
おそらく「2文字?戒名はもっと文字数が多いのでは?」と疑問に思われた人もおられると思います。
一般に戒名と呼ばれているものは、上から道号・戒名・位号に分かれていて、これらをまとめて世間では戒名と呼ばれてきました。
例)〇〇△△居士(〇〇=道号・△△=戒名・居士=位号)
中には道号の上に院号がある場合もありますが、院号については高価な戒名と受け止められているようです。
例)▢▢院〇〇△△居士(▢▢=院号)
戒名の他に俗名をを彫刻しておく場合には、俗名にも朱色を入れるのが一般的です。
地域によっては
道号・戒名・位号の全ての文字に朱色が入れられた墓石を見ることもあります。
これは間違いということではなく、地域性によるものと思われます。
西日本の多くは
生前に戒名を彫刻する際の朱入れについては、他の地域と同じです。
西日本の多くの地域では、墓石建立者などの名前部分にも朱色を入れてきました。
例)山田 太郎 建之
このような風習は、東日本にはありません。
大阪の南部地域では、名前以外の苗字の部分にも朱色を入れる場合もあります。
例)山田 太郎 建之
仏事ごと全般にいえると思いますが、地域によって習わしは異なります。
詳しくは、お住いの地域の石材店さんに尋ねていただくと良いと思います。
筆者は墓石業界にお世話になって35年以上が経ちます。
最初は石材店に入社をしたわけですが、入社して暫く経って「墓石に入っている赤色のペイント」が気になりました。
とても不自然に感じて、先輩に尋ねてみましたが「昔からやっている事なので理由は分からない」とのことでした。
今から思えば、そこでは朱色ではなく赤色のペイントを使っていたと思います。
今はAIに聞けばすぐに答えてくれますが、当時はパソコンも持っていませんでした。
何年か経って、テレビで寺院か神社の修復の様子が放送されていました。
朱色の漆を何重にも塗りながら、鮮やかに蘇る様子が伝えられていましたが、朱色を作る際の説明が気になりました。
ナレーションでは、昔は朱色を造る際に水銀を用いていたそうです。
古来より銀は魔よけの金属とされてきたため、水銀の入った朱色は魔よけの色ということでした。
この番組を見たことで、朱色の謎が解けました。
「魔よけ」「厄除け」を考えて朱色を塗ることで、生前にお墓を建てた人の長寿を願う意味があったのだと思われます。
古墳時代からお墓はありますが、一般的な庶民がお墓を建てる風習は、檀家制度ができた江戸時代からといわれています。
この間にも土葬から火葬へと環境が変ったり、少子化や核家族化によって簡素化されてきたものもございますが、変わらぬ風習も残っていました。
長寿を願うなどの良い面は残しつつ、これからも時代に沿ったお墓の提案を心がけたいと思います。
